学芸員のつぶやき~書簡でみる正楽像~(2)

ただいま開催中の企画展「宇摩の変わり者?!安藤正楽-書簡でみる正楽像-」に関する話を
もう一つしたいと思います。

本企画展の第四章のところで、正楽の絶筆と伝わる三幅を展示しています。
今回はその中から、次の一幅について紹介します。

「曽不登岳愛平地 八十八年何所為 晴耕雨読父祖賜 故人至今不吾棄」

(かつて岳に登らず平地を愛す 八十八年為すところ何ぞ 晴耕雨読は父祖の賜 故人今に至って吾を棄てず)

冒頭部分「かつて岳に登らず平地を愛す」この言葉と似ている記述が、
晩年の正楽から、家族が聞き取りを行った記録集『任堂夜話』(第三巻)にありました。
(※この『任堂夜話』は本企画展で、展示紹介はしておりません。)

「登山 
わしは山へは登らん 
山は登って行って脚元を見るものではない
遠方から眺めるものだ」

どうして高い山へ登るのがいやで平地を愛するのか・・・
正楽の甥・山上次郎氏が正楽に聞いたところによると・・・


「高い山といっても上がれば終わりだ、平地は平凡なようだが無限だ、無限を追求してゆかねば面白くない」
「今ごろの人は山へ登って山を征服したなんていうが(中略)自然は征服できるものではない」
(山上次郎著『平和・人権の先覚 安藤正楽』より)

と正楽は言ったようです。一幅の冒頭の言葉、『任堂夜話』での言葉、山上次郎氏への言葉・・・
正楽の自然に対する畏敬の念が伝わってきます。また、正楽は平地を無限として捉え、これを追求していかなければ
面白くないと言っていることから、正楽の強い探求心が伝わってきます。

開催中の企画展「宇摩の変わり者?!安藤正楽-書簡でみる正楽像-」は
2021年2月7日(日)まで開催

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